きれいな歯並びときちんとしたかみ合わせ、質の高い適正な矯正治療の提供、矯正歯科臨床のたゆまぬ研究・研鑽・伝承を行なう与五沢矯正研究会
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研究大会報告 10回

◆ 第10回研究大会開催 1988年4月16日・17日・18日 ホテル オークラ本館(東京)
16日 Case presentation (会員のみ)
17日 Case presentation
講演I [9:15-10:45] (外部より500名参加)
「矯正治療の限界と可能性 -20年間の臨床経験から-」 矯正専門開業(東京)
与五沢 文夫
講演II [11:00-12:30]
「下顎骨成長に対するチンキャップ整形力の効果を顧みる」 東北大学歯学部教授
三谷 英夫
講演III [14:00-17:00]
「Early treatment in orthodontics矯正における早期治療」 矯正専門開業(カナダ・トロント)
Jack G.Dale
Case presentation・スナックパーティ
夕食会
18日 講演
「istorical development of Edgewise appliance in USA」
「Multibanded mechanotherapy」
Jack G.Dale


講演抄録
◆講演I : 矯正治療の限界と可能性 -20年間の臨床経験から-
  与五沢 文夫
   私が矯正臨床医の道を歩み始めたころ、矯正学の入り口を探すのに半年以上の時を費やしたことを思いだします。教科書に著されている矯正学の概念、診断、臨床のそれぞれの相互関係が十分に理解できなかったからです。
  いつのまにか私は、教科書の記載順序とは逆の方向から矯正学の道をたどっていました。
矯正治療によって起こる個々の変化や反応を正確に捉え、それらに共通する科学的なリアリティー(法則)を事実に即して考え、ひとつひとつ過去の記述と照合し、自分なりに整理をした上で経験例として蓄積する方法論をとりはじめていたのです。この方法は、私にとっては正しかったと思います。多くのリアリティー(現象)を素直に観察することができたからです。もっとも、このような経験主義的なアプローチが許されたのも、多くの先輩の傍らで矯正が行えたからにほかなりません。
  しばらくして私は、矯正法は矯正学のシステムから発生したものではなく、逆に、治療法という手段の組み合わせから矯正治療学のシステムがつくられていくことに気がつきました。矯正学もまた、経験主義的な色彩の強い学問であろうかと思います。私の矯正学への関心は、まず治療法そのものに向けられ、経験とともに治療に伴う生体の変化の様式、さらに個々の多様な変異へと移りながら、現在に至りました。
  その間、いろいろな症例に直面し試行錯誤しながらも一通りの結論を得、現在では既存の矯正学という枠組みの中を私なりに一巡したと感じています。そこに、私自身の矯正治療の限界があります。むろん、現在の矯正学のシステムの中には、いまだ膨大な量の露わにされない事実の見落としがありましょうし、今後それらの発見によって矯正治療の可能性はさらに膨らんでいくものと思います。しかし、それと同時に私の気持ちの中では、既存の矯正治療の枠組みに対する疑問が次第に大きくなり、新たな価値観と可能性を求めはじめているのが現状です。
  今回は症例を通じて、これまでの過程と現在感じていることについてお話したいと思います。

◆講演II : 下顎骨成長に対するチンキャップ整形力の効果を顧みる
  三谷 英夫
   われわれは日常の臨床のなかで、成長過程にある下顎前突症に遭遇する機会がきわめて多い。このような症例に対しては、下顎骨の成長が将来の咬合をいっそう悪化させるもの判断すれば、その成長に対してなんらかの処置をとることが望ましく、そのための装置として通常チンキャップを使用する。
  一方、近年の矯正治療の咬合形態における精度はきわめて高度なレベルに達し、しかもそれはあらかじめ立案した綿密な治療計画に沿ってなされることが多くなっている。したがって、このような場合には、使用する矯正装置の効果の程度を正確に知って、それを治療に組み入れることが要求されることになる。ところが、多様な変異を示す下顎骨の成長現象に対するチンキャップの適用では、その効果の精度も多様で、臨床的には確実に所期の効果が獲得できる装置としての信頼性を得るに至っていない。
  そこで本講演では、成長過程にある下顎前突症にチンキャップを適用した場合、下顎骨成長に対してどこまで制御が可能であるかについてふりかえり、その効果の確認をしたい、すなわち、下顎骨の成長現象が示す種々のパラメータに分けてその効果を論じ、かつその使用に付随するいろいろな問題点を顧みて、チンキャップを現在の矯正治療システムの中でどのように位置づけるかについて考えてみるつもりである。

◆講演III : Early treatment in orthodontics Guidanse of occlusion -Serial extraction-
 矯正における早期治療 咬合誘導 -連続抜去法-
  Jack G.Dale
   『われわれは、成長とその潜在能力、発育中の歯列に及ぼす機能の影響、顎基底と頭蓋との関係における歯列の正常な近遠心的位置関係などを学ぶにつれ、成長過程をより生理的にコントロールする時期や方法を理解できるようになる。いいかえると、知識が徐々に“荒々しい技術(harsh mechanics)”にとって代わりつつあるということで、近い将来、矯正治療の大半は、むずかしい年齢である思春期以前の混合歯列期に行われることになるであろう。』-Charles H.Tweed
これは、40年以上も永久歯列の治療に携わり、エッジワイズ法の発展に関わりながら、時に“荒々しい技術”の代表として引き合いに出される男が語った興味深い言葉である。
  しかし、最後の13年間、彼が本当に関心をもっていたのは混合歯列期の治療であり、咬合誘導であり、また連続抜去法であった。
  Tweedは多くの人と同じように、ディスクレパンシーによるI級の不正咬合においては、連続抜去法によって、萌出時に叢生は改善されていることに気がついた。つまり、連続抜去法は治療計画に自然を取り込む環境をつくりうる方法、といえる。彼はまた“荒々しい技術”により、成長とその潜在能力あるいは生物学的原則を利用して、不正を改善するほうがずっと気分がよく価値の高い方法であることに気づいた。
  近年、混合歯列期での治療がめざましい発展を遂げてきたことにより、『矯正治療の大半は混合歯列期に行われることになるだろう』という彼の言葉はすでに現実のものになっっている。たとえ連続抜去法を行った症例-II級,III級,およびほとんどのI級症例-であっても、安定した治療結果を得るためには、短期間とはいえ“荒々しい技術”か高精度の機械的治療を行う必要がある。連続抜去法が完全に機械的治療にとって代わるものではない、ということは強調しておかなければならない。しかしそれでもいくつかの例で、連続抜去法が思春期のむずかしい年齢での機械的治療を明らかに減少させていることも事実である。
  『現代の矯正でもっとも大切なことは、不正咬合の改善に必要な方法を早期から考えておくことである。どのような方法をとろうとも、目標は治療時間を短くすることである。』 Lyman Wagers
できるだけ早期に不正咬合を改善すること、10代の多感な時期にマルチバンドがはいる期間をできるだけ短くすること、場合によっては入れずに済ますこと、これは論理的に正しいことである。
  仮に、部分的にしろ早期に最短の期間で不正を改善できるとしたら、歯列や顎態、軟組織を、好ましくない状態のまま何年も放置しておくことが許されるだろうか。
  連続抜去法は、注意深く選択した患者に正しく用いられれば、治療時間、治療費、患者の不快感、それに両親の時間の節約や減少になる。バンドや見える装置を避けることが強調される現在、連続抜去法はより重要になってきた。装置を見えなくするもっと良い方法は装置を使わないか、少なくともその使用を減らすことである。I級の不正咬合に連続抜去法を応用すれば、矯正家は時間がかかり技術的にもむずかしいII級やIII級の不正咬合の治療にもっと集中できる。このように、連続抜去法は矯正家だけでなく社会にとっても有益である。
  臨床家は、患者の治療前に、診断と治療計画をたてる必要がある。診断を完全に理解していることが矯正治療成功の秘訣である。患者の口腔内で作用する精密な矯正装置の使用法と、きめ細かな治療計画を立てることは誰でもできるが、もし不都合な患者に適用されれば治療は失敗する。同じように、連続抜去法によって、誰でも簡単に歯を抜くことはできるが、診断の基本的な原則を無視すれば、結局治療は失敗し落胆することになる。これは患者の心を傷つけるだけでなくその先生の評判を落とし、ひいては矯正家という職業そのものの評判を悪くすることになる。
  連続抜去法は、これまでしばしば良くない方法と批判されてきた。確かに適用を誤れば有害で良くない方法になり得る。しかし、確固たる診断のもとで、選択した患者だけに行われれば、連続抜去法は優れた有益な治療法である。
  術者が下す決定で最も重要なもののひとつは、不正咬合の治療で抜歯すべきか否かということである。これには、持てる知力と訓練と経験のすべてが必要である。そのうえ、時間の長さに成長発育が加わってこれをさらに複雑にするため、連続抜去法で抜歯をしていくことを安易に考えてはならない、それ故、連続抜去法は診断資料を十分に検討し、確かな診断をした上でなければ始めるべきではない。
  Tweed先生はこうも述べている。
  『口もとが改善され精神的な苦痛からも解放されたとき、活気がなく憂鬱そうだった患者の表情は明るく幸せそうになる。矯正家はこれ以上の何を望み、期待するだろうか。』
  最後に、こうなるのは時期が早ければ早いほどよい、ということをつけ加えておこう。
  (晝間訳)

過去の研究大会報告一覧
1979〜1987年 第 1回〜第9回研究大会
1988年 第10回研究大会
1989〜1993年 第11回〜第15回研究大会
1994〜1997年 第16回〜第19回研究大会
1998年 第20回研究大会
1999年 第21回研究大会
2000年 第22回研究大会
2001年 第23回研究大会
2002年 第24回研究大会
2003年 第25回研究大会
2004年 第26回研究大会
2005年 第27回研究大会
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